太陽のはなびら
【言葉の世界が紡ぐ言霊(2)】
「世界、ですか?」
リュヴリュはシンの言葉を反芻した。それに、シンは頷き話を続ける。
「そう、言葉にはその言葉を使っていた話者たちの世界。そして魂が宿っているんだ」
「話者たちの魂、ですか」
いまいちピンとこない様子のリュヴリュに、シンはさらに説明をする。
「たとえば“雪”なんてのはさ、共通語のブリテン語では一つしかないよね? でも、ここをずっと北に行ったところにある、雪しかないような場所で生きている人たちの古代語で【雪】は何十通りもの表現で表せられるんだ」
「そんなにあるんですか」
リュヴリュは驚いた表情を浮かべた。本当に表情豊かな子だなとシンは思いつつ、話を続ける。
「そう、赤い雪、青い雪、雨っぽい雪、強い雪、こまやかな雪。本当にたくさんあるんだ。いうならば、言葉にはその話者達の魂が宿っているんだよ。その国の人が物事をどう見ているか。その国の人がなにを信じているか。その国の人が世界をどんな風に捕らえているか。そういうのが全部言語に入っているんだ。だから、言語って言うのは一つの世界であり、魂なんだ。でも、もう言葉は死のうとしている」
「ブリテン語があるから、でしょうか?」
リュヴリュが自信のなさそうに小さな声で言うと、シンはうなずく。
「そう。だけれどブリテン語が悪い訳じゃない、確かにみんな同じ言語を話せば便利だよね。どこに行っても言葉が通じるってのは商売する上でとても都合がいい。けど、それによって古代語が死んでいくはつらい。だから、僕は古代語が好きだし、守っていくべきものだと思う」
ふとシンは思わず喋り込んでいた事に気づいた。
悪い癖だ。言葉のことについて話すと、つい熱が入ってしまう。
シンはリュヴリュが退屈しているのではないかと心配になった。
しかし、彼女の顔を見て安心した。その目は好奇心で輝いていたからだ。