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 鷹緒の言葉に、広樹は苦笑した。
「そうだね……」
「でもこの際吹っ切って、誰かと付き合ってみれば?」
「おまえな……簡単に言いやがって」
「おまえが俺の恋愛事情を心配しているように、俺だっておまえのこと心配してるよ。じゃないといつまで経っても、俺とおまえがデキてるって噂が消えないからな」
「ハハ……まだあんのかよ、その噂」
「ああ。超迷惑」
「それはこっちも同じだよ」
 二人して笑いながら、やがて同時に真顔になる。
「ヒロ……社長業でそれどころじゃないのはわかるけどさ、それだけじゃなくセーブしてるのもあるんだろ。もういいんじゃないのか? 自由になっても」
 鷹緒にそう言われて、広樹は俯いた。
「べつにさ……僕だってこの年になってまで純情じゃないし、タイミングというのかな……そういうのが合えば、僕はいつだって誰とだって付き合えるんだよ。それが合わなかったから、今まで付き合ってこなかっただけで……」
「踏ん切りがつかないって?」
 広樹は口を尖らせて頷く。
「たとえばさ、初恋の聡子さんのこともまだ気になるのは確かだよ。でもあれは初恋だから気になるだけなのかもしれない。それに実際、押しまくるほど好きというわけでもないし、仮に付き合ったとしても、離婚して子供までいる聡子さんの人生を、僕なんかが背負えるとは思えないんだよね……」
 言わんとしていることはわかったが、誰かに重なる気がして鷹緒は息を吐く。
「おまえ、そんなに奥手だったっけ?」
「奥手じゃなくて無責任なのかな……それに今の僕は、ただの男じゃなくて社長なんだよ? 勢いで付き合うだけの若さもないし、今までいろいろ苦い経験もしてきてるし……いやわかってるよ。散々おまえのこと心配してるふりして、自分はどうなんだって言いたいんだろ?」
「まあ、それも無きにしも非ずだけど」
「なんだよ?」
「……おまえ、まだ過去引きずってんじゃないの?」
 鷹緒の言葉に、広樹は笑いながらソファに寄りかかった。
「もう……そんなことはないけど、変なこと思い出させないでくれよ」
「違うならいいけどさ、そろそろ踏み出してもいいんじゃないの?」
「僕はさ……おまえと違って、そこそこ自由に恋愛してるよ?」
「でも長続きしてないだろ」
「まあね……どうしたってすれ違うこと多いからね」
 二人はお互いに溜め息をつく。
「ガキみたいな恋愛してんじゃねえよ。俺に言わせりゃ、おまえの恋愛なんてただの遊びだよ」
「おーおー痛いね。彼女持ちは言うことが違うよ」
「てめえ、散々人の恋愛にとやかく口出してきたくせにな」
「それはおまえが、その年で隠居すんのかと思ったからだよ。理恵ちゃんと別れて、一生仕事だけかと思ったからさ……」
「言ってるおまえが隠居かよ。俺ら大して変わんねえな」
 鷹緒はそう言って笑いながら立ち上がり、続けて口を開いた。
「ヒロ。おまえ、終電逃してどうすんの?」
「ここに泊まるよ」
「じゃあうち来れば?」
「また噂立っちゃうじゃん。沙織ちゃんも妬くよ」
「それは面白い話題だな」
 笑いながら広樹も立ち上がって、収納棚から毛布を取り出す。やむを得ずここに泊まる時のために、常に置いてあるものだ。
「大丈夫だよ。ちょっと一人で考えたいし」
「ない頭で考えても無駄。おまえはもともと頭で考えるタイプじゃないんだから、いつもみたいに酒でも飲んでさっさと寝ればスッキリすんだろ」
「人を馬鹿扱いしやがって……」
「まあ、答えが出たら教えてくれ。俺はおまえの恋愛は反対なんだけどな……かといって、このままなのもなんか不憫だし」
「おまえね……まあでも、僕も深入りする恋愛は今のところしたくないのが本音だね」
 二人は苦笑して頷き合った。
「俺にも出来ることがあればするよ」
「うん……ありがとう」
「じゃあな。おやすみ」
 そう言いながら、鷹緒は会社を出ていった。
 残された広樹は、自分の様子を見にわざわざ来てくれた鷹緒の行動に苦笑する。
「あいつ、子供扱いしやがって……」
 そう呟いてみたが、自分もまた逆の立場なら同じことをしていたかもしれないと思い、友達というものがうざったくもありがたくも感じた。
「じゃあ鷹緒の言う通り、さっさと寝ようかな……」
 泊まり用の毛布にくるまって、広樹は社長室のソファに身を横たえた。なぜ告白というものが嬉しさよりもここまで自分を落ち込ませるのだろうと考えてみて、やはり社長という難しい立場を痛感する。
「やだな……こんなことで仕事辞められたり、鬼畜社長だって変な噂立ったりするかも……もっと言い方あったよな……」
 泣いているという琴美を想像すれば、もっとうまくやれたのではないかと後悔してしまう。
 また考えていると、過去の恋愛やいろいろな気になる存在の顔を思い出した。それもまた恋愛なのか情なのかもわからない。
 広樹はその日、苦悩の夜を過ごしていた。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音