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FLASH BACK

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 それから数日後。結局、沙織はユウへの誕生日プレゼントを買わなかった。それは会って渡せる機会もなかったからである。しかしきちんとメールでそれを祝い、ユウからもお礼のメールが届いたことで、沙織の心は明るくなった。別れても大事な人には変わりないのだ。
 そんな沙織のもとに、鷹緒から電話が入る。
『悪いんだけど、手空いてたらメシと煙草買って来てくれない? 地下スタジオにいるから』
 またも忙しい時期に入っているという鷹緒は、今日も忙しそうだ。
 疲れ切った鷹緒の声を聞いて、沙織は言われるまま食料と煙草を調達し、急いで地下スタジオへと向かっていった。仕事中に来いと鷹緒から言うことには、余程のことだと思ったのである。
 真っ暗なスタジオ内も、いつもの如く鷹緒のアトリエスペースだけは明かりが灯っている。
「ああ、悪い」
 鷹緒は数日の間でやつれるように顔色が悪い。本当に追い込み時期なのだとわかるが、沙織は途端に心配になった。
「大丈夫……?」
「大丈夫じゃない。ごはんちょうだい」
 いつから食べていないのかわからないが、いつも限界までやる鷹緒が弱気な態度ということが、逆に少しは大丈夫だということも今の沙織にはわかる。
「どうぞ。あと煙草ね」
「ありがとう。助かるよ」
「もう。いつから食べてないの?」
「朝かな……今日は格別忙しくて……」
「心配だなあ」
「大丈夫。女神が来てくれたから」
 食事をしていつもの調子に戻ったように、鷹緒は不敵な笑みを零す。沙織も赤くなりながらも微笑んだ。
「まだ時間かかるよね。先に渡してもいいかな」
 そう言って、沙織は紙袋を差し出した。
「何?」
「帰国から一年記念!」
 嬉しそうな沙織につられて、鷹緒も微笑む。
「ああ……もうそんな時期だっけ」
「そうだよ。BBのコンサート中じゃない」
「そっか。ユウのバースデイ記念も兼ねてのツアーだったっけ」
 紙袋の中には箱があり、それを開けると大きめのマグカップが入っていた。洒落た陶器のカップである。
「渋めで飽きない感じでしょ。カッコイイと思って一目惚れしちゃった」
「ああ……ありがとう」
 そうは言うものの、鷹緒は少し困ったように見えるので、沙織は不安げにその顔を見つめた。
「気に入らなかった……?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「でも嫌そう……」
「いや……俺、あんまり食器買わないから。増えていくの嫌なんだよ。だからどれを捨てようかなって」
 鷹緒の考え方に、沙織は俯く。悲しいわけではないが、余計なプレゼントだったと思うと後悔も出てくる。
「あ……じゃあ、誰かにあげるからいいよ」
「嫌だよ。俺がもらったもんだもん」
 なんだか言葉についていけず、可愛く聞こえる鷹緒の言葉に沙織は笑った。
「鷹緒さんってば、難しいなあ。もらったもんだもんって……可愛い」
「可愛いってなんだよ。一端の男に向かって……」
「だって可愛いんだもん。そうだ、私の家に持って帰るよ。それで家で使う鷹緒さん専用カップにするの」
「まあ……おまえが良ければ」
「全然いいよ。ああ、だったらお揃いにすればよかった。色違いがあったんだ」
 嬉しそうに話す沙織を見て、鷹緒はその頭を撫でる。
「じゃあ、その色違いは俺が買ってやるよ」
「……鷹緒さんの帰国から一年おめでとう記念なのに?」
「おまえと再会して一年記念ってことで」
 そう言った鷹緒に、沙織は大きく頷いた。
「うん!」
 こうして二人の思い出の品がまた、増えていくことだろう――。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音