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FLASH BACK

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「まあ……そうですね」
「でも不満があるみたいだね。まあわからなくもないけど……あんまり考え過ぎないほうがいいと思うわよ」
 軽く言ってくれる理恵に心救われる感じがしながらも、沙織は真顔になって溜息をついた。
「寂しさって……どうやって埋めたらいいんですかね?」
「え?」
「鷹緒さん、優しいんです。無理してるっていうくらい……それがなんだか申し訳なかったり、でも忙しすぎると不満になったり、自分の気持ちがブレブレで……でも鷹緒さんは仕事に妥協はしないし、それなのに今日も会議終わったら会いに来てくれるって……だけど、なんだろう。きっと毎日会ってても、ずっと一緒にいても、きっと寂しい……」
 話を聞きながら理恵はコーヒーを一口飲み、静かに頷く。
「それはきっと、相手が鷹緒だから寂しく思うわけではないんじゃない? 好きだから寂しいんでしょ。私もその気持ちわかるよ。今こうして沙織ちゃんや誰かと会ってても、目が回るほど仕事が忙しかったり楽しかったりしても、心だけは寂しかったりするのよね……」
 理恵の言葉に、沙織は目を泳がせる。
「それって……鷹緒さんの話じゃないですよね?」
「豪のことでもないわよ? 恵美のこと」
 悪戯な目にはぐらかされるようにして、沙織は俯いた。
「……無理させちゃう自分が嫌なんです。まあ無理しても、鷹緒さんはこれ以上に仕事減らすとかはしないとは思いますけど……無理じゃないとか言ってくれても、今まで仕事で寝る時間も食べる時間もなかった人が、私のために時間作るなんて無理してるに決まってるじゃないですか……でも、それなのに一方で会えないのが不満だったり……」
「沙織ちゃんも、そんな無理することないんじゃない? 私は嫌なことがあれば嫌だって言うし、そうしたら相手も妥協出来るところはしてくれて、出来ないところは話し合えばいいでしょ。でも私と沙織ちゃんじゃ全然性格違うし、そんな沙織ちゃんだから彼とうまくやっていけてるのかもしれないけど……そんなに物わかりよかったら、すぐに疲れちゃうんじゃない?」
 理恵は明るくそう言った。確かに理恵と沙織は別のタイプだろうが、それでも通じる何かがある。
「な、なるほど……勉強になります」
「いやいや、私は失敗しているクチだから偉そうなことは言えないけど……まだ付き合い始めて長いわけでもなし、いろいろ言いたいこと言い合って、探りながらでも歩み寄っていったらいいんじゃないのかな……彼、優しいんでしょ。そうそう怒ったりしないんじゃない?」
「はい。そうですね……私も正直にいてほしいって人には言うくせに、自分は飲み込んじゃってたかも……」
「あ……でもよく言う“私と仕事とどっちが大事なの”的なことは、言わないほうがいいわよ」
 突然の具体的な理恵の言葉に、沙織は首を傾げた。
「え?」
「鷹緒に限らず、男の人には禁句みたいだけどね……私、前に思わず彼に言ったことあるのよ。その返答がトラウマっていうかなんというか……言っちゃいけなかったなって、今でも後悔してるから」
「鷹緒さんにですか?」
「そう。だから沙織ちゃんも、そういうことは言わないほうが……」
「その返答って、なんて言われたんですか?」
 当然といえば当然だが、興味津々の様子で、沙織は身を乗り出してまで理恵に尋ねた。
「あ……彼には内緒にしてね? まあ覚えてないだろうけど……」
「はい」
「私がそのセリフ言ったら、“じゃあおまえが一生俺の面倒見てくれるの?”ってね」
「え……」
「まあ、ある意味当然で正論よね。でも当時の私には衝撃的だったし、そこまで真剣な答えは望んでなかったんだけど、その後も“家のローンは? 世話になった親戚にも恩返ししたいし、おまえ長女だろ。親の老後のこととかまで考えてる? 金の心配しなくてもすむくらいおまえが稼いでくれるならいつでも仕事やめたっていいけど、出来もしないくせに無理言うな”って捲し立てられてね……私が悪かったけど、返す言葉もないわよ」
 苦笑する理恵だが、二人がうまくいかなかった原因の断片が垣間見えた気がした。なにより同じセリフをいつか自分が言ってしまうことがあったとして、同じ言葉を返されたらショックで口も利けそうにない。
「なんか……言いそうだなあ。前に私も(※FLASH2で)言われました。周りに付き合ってること言えないことに不満もあったんですが、“だったら仕事やめるか? おまえが仕事やめるなら公表してもいい”って……」
「ああ……」
「鷹緒さんはいつでも、言ってること合ってるんですよね。でも言い方っていうか、時々怖い時があるから、そう前へ前へと言えなくて……」
 沙織の言っていることが痛いほどわかって、理恵は苦笑した。鷹緒の新しい恋人とこうして話すことなど今まで考えてはいなかったが、その関係は嫌ではなくむしろ新鮮で、また鷹緒の言動が以前とあまり変わっていないことに、懐かしくも感じれば呆れもする。
「まあ……そういうことだから、寂しくても少しは我慢。でも我慢しすぎないように……って、難しいけど頑張って。それでも悩むようなら、私で良ければ話聞くし」
「ありがとうございます。なんだか言ってスッキリしました。周りに言うこと出来ないから、それもまたストレスで……付き合ってることを麻衣子は知ってますけど、なんかノロケに聞こえるらしくて、あんまり相談出来ないんです」
 苦笑する沙織は、理恵から見ても可愛らしい。理恵は急に複雑な気持ちになったが、それを押し込めて微笑んだ。
「私が言うことじゃないけど……彼の優しさとか不器用さとか、本質的な部分はそう変わらないと思うけど、今と昔じゃ全然違う部分もあるんだろうし、沙織ちゃんは自信持って彼と向き合えば大丈夫よ」
「はい……ありがとうございます」
「うん。じゃあ元気出して、そろそろ行こうか」
「はい」
 沙織は理恵に言えたことで、溜めていた部分を吐き出して楽になっている。
 そのまま二人は、同じ仕事現場へと向かっていった。

 それでも少し早めに現場入りしたので、沙織は一番乗りでメイクルームへと向かっていった。理恵もまた早いので、資料を見つめながらスケジュールを確認する。
「あれ? 諸星さん」
 そうこうしていると、そんな声がして理恵は顔を上げた。するとそこには鷹緒がいて、スタッフたちと話している。
 理恵は驚いて鷹緒に近付いた。
「……どうしたんですか?」
 今日の撮影スタッフは身内ではない。他社のスタッフでも今日の撮影は気心が知れている人ばかりなので、鷹緒がいても違和感はないのだが、来るはずのない鷹緒に一番驚いているのは、同じ会社の理恵である。
「打ち合わせが早く終わったから寄っただけ。制作の西内さんに会えたら、話したいこともあったんだけど……沙織は来てる?」
 最後の言葉で、鷹緒の本当の目的が沙織と悟って、理恵は苦笑した。
「あなたが公私混同する人だなんて知らなかった」
「人聞きが悪いこと言うなよ。ついでに聞いただけだろ」
 そう言いながらも、鷹緒の目は沙織を探している。
「メイクルームに行ったわよ。さっきお茶して、一緒に来たの」
「そう……なんか言ってた?」
 見え見えの探りがおかしくて、理恵は笑うしかない。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音