小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

FLASH BACK

INDEX|47ページ/84ページ|

次のページ前のページ
 

 苦笑する鷹緒を見て、沙織はシャッターを切り始める。
「鷹緒さんかな?」
「俺はそんなこと言いません」
「あはは。そうだね。じゃあ、ちょっと笑って?」
 素直に歯を見せる鷹緒だが、笑っていることにはならない。
「もう。真面目にやってよ」
「やってるけど……どうせおまえ、そんな撮り方じゃまたブレてるだろ」
「うん……よくわかるね」
「やっぱいいカメラすぎたかな……つい俺も使えるの選んじゃったけど、もう少し初心者向けにすればよかった」
 そう言いながら、鷹緒は椅子に座ってポーズを変える。
「そんなこと言わないで。ちゃんと使いこなすもん」
「じゃあもっとちゃんと構えて。箸より重い物持ったことないのか? シャッター切る時にブレてんだよ。動くな」
「結構難しいね……」
「まあ、手ブレさえ直せばどうにかなるだろ。最悪、三脚使うとか机に置くとか、少し工夫すればいいことだし。それより、撮影はもういいの?」
 手を止めている沙織に、鷹緒が尋ねた。
「だっていいのが撮れない……私、写真の才能ないんだなあ」
「じゃあ撮られるほうってことでいいんじゃない? 見せて」
 手を差し出す鷹緒に、沙織はカメラを渡した。その場で二人は撮ったばかりの写真を確認する。
「あれ、結構うまく撮れてる! やっぱり被写体がいいと違うんだなあ。鷹緒さん、何しててもカッコよく写りそう」
 思いのほか綺麗に撮れていたので、沙織ははしゃぐようにそう言った。
「ちょっと設定いじったからなだけだと思うけど。でも手ブレはなくなったじゃん。あとは構図を直したいけど……それはまた今度な」
「うん! なんか嬉しい。諸星鷹緒直伝のレッスンなんて、そうそうないよね。彼女の特権みたい」
「当たり前だろ。タダでこんなこと、おまえ以外に誰がやるか。自分が被写体になってまで……こんなこと誰にも言うなよ。その写真も絶対誰にも見せるな」
 鷹緒は軽く片付けて、自分の部屋に続くドアを開けた。きつい言葉ながらも、鷹緒の顔は照れているように見えて、沙織は嬉しさを噛みしめてついていく。
「ありがとう、鷹緒さん」
 そんな言葉を受けて軽く微笑みながら、鷹緒はスタジオの電気を消すと、沙織とともに自分の部屋へと戻って鍵を閉めた。
「そこ……いつの間に鍵つけたんだね?」
 突然、沙織がそう言った。スタジオに続くドアは、以前は鍵などついていなかったはずである。
「ああ、結構前だよ。アメリカ行く前じゃなかったかな……さすがに俺がいない時に、誰かが入るかもしれないのは嫌だったから。どうせ事務所に家の鍵は預けてあるから、いざとなったら入れるし」
「そうだったんだ? じゃあ鷹緒さんの部屋の鍵持ってるの、私だけじゃないんだね……」
 少し残念そうな沙織を尻目に、鷹緒はリビングのソファへと座る。
「しょうがないだろ。でもプライベートで持ってるのはおまえだけだし、それで許して」
「うん……」
 その時、鷹緒は立ったままの沙織を見て笑った。
「おまえ、相当眠いんだろ?」
 沙織は何度も目をこすり、先程から時折あくびを見せている。
「そ、そんなことないよ」
「無理すんなよ。恵美が寝る前とそっくり」
「え? 恵美ちゃんと?」
「今日の撮影、早かったんだろ。ベッド使っていいよ」
 そう言った鷹緒に、沙織は寂しそうに俯いた。
「鷹緒さんは……?」
「俺はもうちょっと起きてるよ。まだやることあるし」
 スリープ画面になったパソコンを起こして、鷹緒はカメラの手入れの続きを始めている。沙織はその場に立ったまま、鷹緒を見つめた。そんな沙織の視線に気付き、鷹緒は首を傾げる。
「なに? お姫様だっこで寝室まで連れて行ってほしい?」
「ち、違うよ! そんなんじゃないけど……ただちょっと、まだ寂しいっていうか……」
「でも眠いんだろ?」
「そうだけど……」
 仕事の邪魔はしたくないと思っても、鷹緒の家に来ているというのに一人で寝るのは、なんだか寂しいものがある。
 それを察して、鷹緒は立ち上がった。
「おまえな。勝手に来たんだから、俺の仕事の邪魔するなよ」
 そんな鷹緒の言葉に、沙織は俯く。
「わかってるよ。もう帰るもん」
 沙織がそう言ったので、鷹緒は苦笑する。
「嘘。言ってみただけだよ」
 鷹緒は沙織の手を掴むと、そのまま寝室へと向かい、強引にベッドに押し倒した。
「悪いけど、今日はこれで勘弁して」
 言いながら、鷹緒は沙織に長くて熱いキスをする。
 沙織にとっては“勘弁して”という言葉が引っかかりもしたが、自分が勝手に来たことを差し引いても、そのキスだけで満足だ。
「おやすみ」
 続けて言った鷹緒に、沙織はそっと頷いた。
「おやすみなさい……」
「ちゃんとあったかくして寝ろよ」
「うん……鷹緒さん、あとでここに来る?」
「まあ……おまえが嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ。起こしていいから、絶対来てね」
 放っておいたら朝まで仕事をしているか、そのままソファで寝てしまうのではないかと勘ぐって、沙織はそう言った。
 鷹緒は沙織の髪を撫でると、ベッドから起き上がる。
「じゃあ布団あっためといて。おやすみ」
 寝室から出ていった鷹緒を見送って、沙織は布団にくるまった。鷹緒の匂いに包まれているようで、そのまま沙織は安心して目を閉じる。
 突然来たのに嫌な顔もせずに受け入れてくれたこと、写真嫌いな鷹緒が被写体になってくれたこと、すべてが彼女の特権と思えて、沙織の顔が綻ぶ。
「好き……」
 嬉しさの中で、沙織は眠りについた。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音