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FLASH BACK

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「ありがとうございます」
 沙織がお辞儀をすると、男性たちは去っていった。
「なんだ、ファンだったのか。からまれてるのかと思った」
「半分そうだけど……」
「おまえの言葉で言うと、モテるんだな」
「今のは違うよ……」
 と言いかけて、さっき自分が鷹緒に言ったことを後悔した。
「ごめんなさい……」
 続けて言った沙織に、鷹緒は苦笑する。
「今日は帰る? うち来る?」
 そう言われて、沙織が選ぶのはまだ恥ずかしい。
 と、言い出す前に悟ったのか、鷹緒は軽く沙織の肩を抱いて方向転換した。
「じゃあ、うちに来るんでいい?」
「……うん」
 いちいち赤くなる沙織が可愛くて、鷹緒は沙織の頭を撫で、先に歩き始める。沙織のファンもいるので、繁華街で大っぴらに手を繋いだりはほとんどしない。
「今日は早く終わったから、まだ早いね」
 沙織が言った。今日は鷹緒が休みということもあり、二人には信じられないくらい早い時間だ。
「確かに。いつもこの時間、食事すら出来てないもんな」
「鷹緒さんの明日の予定は?」
「明日は撮影入ってるけど、比較的早く終わると思うよ。おまえは休みなんだっけ?」
「うん。昼間は学校あるけどね」
「久々に学校なんて聞いたな……真面目に通ってんの?」
「失礼だなあ。でもうちは単位さえ取れれば出席日数とかあんまり関係ないんだよね」
 そう言う沙織は短期大学に通っているが、芸能系なのであまり縛りはない。
「ふうん。そうか、おまえのが学歴上になったんだなあ」
 ふと気付いて呟いた鷹緒に、沙織もその事実を初めて認識した。
「そうだね……でも知ってる通り、うちの短大はあんまり将来とか意味ないよ? お母さんが、とりあえず行っといたほうがいって言うから行ってるだけで……」
「うんまあ、俺は今となっては早めにプロになれたからよかったと思ってるよ。そうでなくとも高校すら行く気なかったから、大学なんてな……」
「もったいないなあ。頭良い学校通ってたのに……大学付属でしょう?」
 またも古い話に、鷹緒は苦笑する。
「何年前の話だよ……」
「だって……私は今、学生なんだもん」
「まあね。でもこの間ノート見せてもらったけど、俺でもわかるレベルってひどくねえ?」
「もう。この間見せたのは英語でしょ。英語が得意な鷹緒さんからしてみたら、そりゃあ低レベルかもしれないけど……しょうがないじゃない。それとも馬鹿って言ってる?」
「馬鹿に馬鹿なんて言わないよ」
「もう!」
「あはは。冗談だよ」
 車で鷹緒の家へ向かうと、二人はエレベーターの中でやっと手を繋いだ。
「もっと高層マンションだったらなあ」
 今よりも高層ならば、もっと長く手を繋いでいられる。沙織のそんな言葉に、鷹緒はそっと微笑む。
「そう? 早く着けば、手繋ぐ以上のこと出来るよ」
「エッチ」
「誰が」
 じゃれ合うようにエレベーターを降り、鷹緒は鍵を取り出しながら先を歩き始める。すると突然鷹緒が立ち止まったので、沙織は勢いで鷹緒にぶつかってしまった。
「もう。急に止まらないで……」
 沙織がそう言うものの、鷹緒は微動だにせず、やがて口を開いた。
「恵美……」
 その言葉に、沙織は鷹緒によって塞がれた向こう側を覗き込む。すると鷹緒の部屋の前では、小さくうずくまる恵美の姿があった。
「パパ!」
 立ち上がった恵美は涙に濡れていた。鷹緒は恵美に駆け寄ると、腰を落としてその顔を見つめる。
「どうした? 一人で来たのか?」
 恵美は何も言わず、立ち止まったままの沙織を見て、そっと口を開いた。
「……パパ、沙織ちゃんと付き合ってるの?」
 それを聞いて、鷹緒は静かに頷く。
「うん、そうだよ……とにかく中に入ろう」
「ううん……いい」
「俺に話があるんじゃないのか?」
「……ちょっと顔見たかっただけなの」
 子供心に気を使っているのが痛いほどわかり、鷹緒は恵美の頭を撫でた。
「いいからおいで。いつから待ってたんだ? 冷たくなってるじゃん」
 そう言いながら、鷹緒は部屋のドアを開ける。そのまま入っていく恵美の後ろで、沙織は戸惑いながらもそれに続いた。
 先日も理恵から恵美がナーバスになっていると聞いていたため、鷹緒も沙織も気が重くなる。だが鷹緒は少し慣れた様子で、恵美の頭をもう一度撫でた。
「腹は減ってる?」
 鷹緒の質問に、恵美はそっと頷く。
「減ってる……」
「あ、じゃあ私、なにかごはん作るよ」
 すかさず沙織が言ったので、鷹緒は沙織を見つめる。
「いいの?」
「うん。パスタでいいかな、恵美ちゃん。この間買ったから、そんなものしか作れないけど……」
 沙織の言葉に、恵美は無言のまま頷いた。
「じゃあすぐ作るからね」
「俺、ちょっと着替えてくる……」
 鷹緒はそう言いながら、沙織を横切ると同時に、恵美にわからないように電話する仕草を見せたので、沙織も頷いた。
 リビングから鷹緒が出て行ったので、沙織はキッチンの冷蔵庫を覗く。料理をしない鷹緒だけあって食材はないに等しいのだが、先日カレーを作った際に残っていた玉ねぎが残ってるほか、非常食用にパスタのルーも買っておいたので、それを取り出してガスレンジにセットする。
 するとそこに恵美が顔を出した。
「恵美ちゃん。すぐ出来るから待っててね」
「……」
 口をつぐんで俯く恵美に、沙織は手を止めて、その顔を覗き込んだ。
「どうかした?」
「……沙織ちゃん、本当にパパと付き合ってるの?」
 その言葉に、沙織は目を泳がせる。鷹緒は否定しなかったが、目の前にいる恵美は明らかに不安気な表情をしている。
「恵美ちゃん……」
「お願い。パパをとらないで」
 恵美自身も無茶なことを言っていると思っているのか、身を縮めてそう言った。
 衝撃を受けながらも、沙織は恵美を見つめた。だが恵美は涙をためて沙織を見つめる。
「こんなこと言ってごめんなさい……でも恵美、パパのことが好きだから……」
 それを聞いて、沙織は恵美の頭を撫でた。ショックもあるが、可愛らしいとも思う。
「大丈夫だよ……何か鷹緒さんに話があって来たんだよね? ごはん作ったら私は帰るから、鷹緒さんとゆっくりお話してね」
 それを聞いて静かに頷くと、恵美はリビングのソファへと戻っていった。
 恵美の言う好きがどれほどのものなのかはわからないが、恵美が自分と別れることを望んだら、鷹緒はそれを叶えてしまうような気がして、沙織の心は沈む。だが今、鷹緒と付き合っている自信もあり、恵美がナーバスな時期だと知ってもいたので、今出来ることをしようと沙織は料理を続けた。

 鷹緒は寝室で、理恵に電話をかけていた。
『もしもし』
 まだ事態を察していないのか、いつも通りのトーンで理恵の声がする。
「諸星ですけど」
『うん、どうしたの?』
「おまえ、まだ会社?」
『ううん、お店。これから接待に付き合わなくちゃいけなくて……』
 副社長である理恵は、思うよりも忙しいらしい。
「今、恵美がうちに来てる」
『えっ!』
 突然、理恵の大きな声が響いた。
『ど、どうして……?』
「帰ったら部屋の前にいたんだ。まだ何も話してないけど、様子を見て連絡する」
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音