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 鷹緒の言葉に、今度は沙織が苦笑する。
「なにそれ。普通じゃない」
「普通でも、一人暮らしだとなかなかやらないぞ? それに俺、去年まではアメリカだったし」
「あ、そっか。じゃあこっちで年越しも久しぶりなんだね」
 今年の春まで鷹緒が出張でニューヨークに行っていたこともすっかり忘れ、沙織は苦笑した。もうずっとそばにいてくれている感覚もあれば、ずっと忙しくて離れている感覚もある。
「……去年の今頃、今年こんなふうに年を越すなんて思ってなかったな……」
 しみじみと言った鷹緒は、いろいろ考えているふうに見える。
「それは私もだよ」
 隣に座る沙織がそう言ったので、鷹緒はその肩を抱き寄せて額にキスをした。
「さ、食べようか」
「うん。早く食べないと、おそばのびちゃう」
 二人はそばを食べながらテレビを見つめる。そろそろ年越しのカウントダウンが始まる頃だ。
「来年の大晦日も……こうして一緒にいられるといいな」
 鷹緒からの嬉しい言葉に、沙織は静かに頷く。
「絶対一緒にいよう? だから仕事入れちゃ駄目だよ」
「わかった。でも、おまえもだぞ?」
「私は大丈夫だよ」
「そうか? 普通の人が休みの時こそ忙しいのが、俺たちの商売だからな。おまえだって、明日の昼はファッションショーがあるんだろ」
「そうかもしれないけど、年越しみたいな夜中に仕事はないもん」
「じゃあ、約束な?」
 長い鷹緒の小指が目の前に来て、沙織は自分の小指を絡めた。
「好き」
 そう言いながら、沙織は鷹緒に抱きついてみた。その行為が恥ずかしいとも思ったが、そうせずにはいられない愛しさがあったのだ。
 沙織を抱き止めながら、鷹緒はソファに身を横たえる。
「俺も」
 そう鷹緒が言った瞬間、二人の耳にテレビのカウントダウンが聞こえた。
「あ、カウントダウン始まっちゃった! 7、6、5、4……」
 自分の上でテレビを見つめながら、一緒にカウントダウンを始めた沙織の頬を撫でると、鷹緒はその口を塞ぐようにキスをした。
 華やかなテレビ番組と対照的に、そのまま二人は静かなキスの中で新しい年を迎える。
「今年もよろしく」
 やがて鷹緒が言ったので、沙織もこくんと頷く。
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします……」
「んじゃ、そろそろ寝ようか」
「もう?」
「明日早いじゃん。俺は徹夜慣れしてるけど、おまえは明日ファッションショーだし、少し寝といたほうがいいよ」
「うん。でももうちょっと、あの……ムードが欲しいっていうか……」
 赤くなりながら言う沙織に、鷹緒は苦笑する。
「悪かったな。俺はおまえがいてくれるだけで満足だから……ごめん。今年はちゃんとおまえのこともっと考えられるようにするから」
 沙織は嬉しくなって、返事の代わりに鷹緒にもう一度抱きついた。
 そのまま二人はその場で眠り込んでしまい、新年早々に軽く風邪を引いてしまったのは言うまでもない。しかし二人にとって、幸せで新しい幕開けの夜であった。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音