FLASH BACK
きっと鷹緒さんを好きな人は、同じだと思う。彼と話す度に好きになっていくのと逆に、彼の言葉の数は恋愛対象と反比例する。恋人とは人前で話さなくても通じている。でも私たちとはたくさん話す。そういう法則があるのを見出したのだ。
残念で悲しい思いはあるのだが、鷹緒さんと沙織ちゃんが一緒にいる姿を見るのが、好きになっている自分がいた。
普段は仕事一筋で冷たい印象を見せる鷹緒さんが、彼女の前ではまるで少年のような可愛い笑顔を見せることを知ったし、沙織ちゃんは何とか二人の間を秘密にしようとしているのか、鷹緒さんが私たち女子社員と仲良くしている姿を、誰にも言えずに陰で悲しそうにしたりといじらしさを見せる。
そんな二人を見ているのがいつの間に辛くなくなり、一方で美男美女で絵になる二人を見ていたいという、複雑な気持ちさえ生まれていた。
「いつか、私も……」
いつか私も、鷹緒さんのような素敵な男性に振り向いてもらえるくらい、綺麗になりたい。
私の恋は実らなかったが、今の私は生まれ変わったかのように、世界が広がった気さえしているのだから――。
「万里。おまえ、綺麗になった?」
そんな頃、鷹緒さんが何の気なしにそう言った。
失恋は悟っても、そう早く気持ちの切り替えが出来るわけでもない。鷹緒さんと話すのはまだ緊張するし、辛いし、かといって嬉しさに顔が赤くもなる。
「え、えへへ。そうですかね……」
「ふうん?」
きっと鷹緒さんは、私が誰かに恋をしているのだと感じただろう。そのきっかけをくれているのは、自分ということも気付かずに――。
「恋は人を変えるんですよ。鷹緒さんも今、輝いてますよ」
そんな私の言葉に、鷹緒さんが笑った。
「おまえには敵わないな。隠し事も出来やしない」
鷹緒さんは、私が沙織ちゃんとの仲を知っているのだと悟って、無邪気に笑う。
私の気持ちには気付いてくれないことが残酷だとも思ったが、私は鷹緒さんが幸せな顔をしていることが、自分でも不思議なくらい満足でもある。
私も目を細めて笑った。
「そうですよ。私には隠し事出来ませんからね」
「ああ。身を引き締めて、下手なことはしないようにしなきゃ」
私たちの笑い声が響く。
鷹緒さん、これからも幸せを分けてください。私が次の恋に、踏み出せるように――。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音