超短編小説 108物語集(継続中)
2時間後、百目鬼のデスクの前に立った芹凛がニッと笑い、問う。「コーヒーでも入れましょうか?」と。
わかってる、こんな調子の時はよほどのことを見付けてきたのだろう。「今はコーヒーより生卵だ、さっ」と催促した百目鬼に、芹凛は思いきり背筋を伸ばし言い切る。
「犯人は…、純情仮面であります」
このぶっ飛んだ報告に、百目鬼は目をパチパチ、パッチン。それから魂を持って行かれたかのように、「へえ〜、月光仮面じゃないんだ」と昭和臭一杯の独り言を…ボソッ。
女鬼刑事はこんな発露を決して聞き逃しまへん、間髪入れずに「令和時代の正義の味方は純情仮面、どすえ」と。
いずれにしても百目鬼はこの力強い主張を受け入れ、「で、その純情仮面て、具体的にどんなヤツだ?」と訊く。
すると芹凛は滔々と…。
1.例えば、YはXから不条理な仕打ちを受ける。決して許容できない。切歯扼腕(せっしやくわん)の日々の果てに、Xの行為を世間に知ってもらうためSNSに動画を投稿する。
2.これを目にしたどこにでもいる市民Zが突然白帽子に白いマスクをして純情仮面に変身する。そしてYに成り代わりXに仕返しをし、Yの怒りを晴らしてやる。もちろん見返りは要求しない。要は誰でも純情仮面になれる。
3.ZのYのための仕返し方法はXに生卵を投げ付ける。これが一般的。
百戦錬磨の鬼刑事はここまでの芹凛の報告を充分理解したのか、「本件は生卵投げ付けでなく矢を放つ、どこかの市民Zに殺意を芽生えさせるほどのY発信の動画、一体どんなのだ」と口を尖らす。
待ってました、ここぞと芹凛はスマホにあるYの投稿動画を、鬼の顔面へと押し出す。そこには高級外車でしつこく前や後ろと煽られ、最終的に停車させられ、車体を叩かれるY、その全容があった。もちろんこの乱暴者は芸能人、鷲爪だった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊