超短編小説 108物語集(継続中)
1週間が経過したが真相は未だ藪の中だ。
百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)こと芹川凛子刑事、二人にも当然焦りが見え始める。そして遂に芹凛がぶつくさと呟く、「動機は、なに、なに、な〜に?」と。
「ジャ凛子、ウッセイぞ!」、百目鬼が一喝したものだから、二人の間に冷えた沈黙が。
そこからの回復に5分を要したが、やっと上司が低い声で「なぜ矢なんだ?」と部下に訊く。これに芹凛は「ピストルじゃ音が出ます」と即答。
だがその後、「ナイフは…」と口籠もると、百目鬼が「洋弓、犯人には拘りがあるんだよ」と返す。それから一呼吸し、「もしお前にやっつけたいヤツがいて、音無しの武器限定ならば、何を使うか?」と部下の顔を覗き込む。
この類いの面倒臭い問答、過去においてもよく繰り返してきた。そのせいか芹凛も手慣れたもの、「そうね」と頬に手を当て、「私の音無し凶器は…生卵かな、それを嫌なヤツに投げ付けてやるわ」と迷答する。
されども上司は珍しくホッホーと唸り、「ホーガンによる殺人は嫌なヤツへの最終形てことか、その序章として世間では生卵投げ付け事件が一杯起こってる…、かもな、まずその実態を調べてくれ」と指示を飛ばす。
芹凛はこのへんちくりんな上司の勘所に「イエッサー」と返し、資料室へと消えて行った。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊