超短編小説 108物語集(継続中)
消えてしまった変若水とわ美、今思えば不思議な女性だった。無欲でガツガツせず、それはまるでふわりふわりと水中に身を浮かべ、時代が流転して行くままに生きてるようだった。
そしてもう一つ不可解なことがあった。働き始め三年になるが、容姿は最初に会った時と変わっていない。言い換えれば、歳を取らない、そのようにも見て取れるのだ。
そんな変若水とわ美は一体どこへ消えてしまったのだろうか?
他の会社へトラバーユしたのか? いや、花木は誠実に指導もしてきたし、充分満足しているはずだ。
それとも男と逃避行? だが彼女には男の影はなかった。
そして花木は思い出した。以前面談した時に、とわ美は言っていた。出身は北海道だと。
北海道、なぜかふと大自然の情景が目に浮かび、「故郷はどの辺りなの?」と聞き返すと、とわ美は数字を並べた場所を教えてきた。これに対し、さらに突っ込んで尋ねるのは失礼かと思い、花木はメモっただけだった。今それを思い出し、手帳を繰った。
『N43度23分0秒 E143度58分6秒』
特に興味もなく、放置したままのメモが残っていた。
しかし今回は勘が働いた。彼女の失踪の真意はこの位置にあるのではと。
それから地図で調べてみると、それは驚くことに北海道三大秘湖の一つ――オンネトー湖だった。
「えっ、ここが故郷ってこと? ひょっとして、そこへ帰郷したのか?」
花木には抑えようのない好奇心が芽生え、とにかく北の湖を訪ねてみることにした。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊