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超短編小説  108物語集(継続中)

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「課長、ちょっと困ったことがありまして……」
 部下の山路が朝っぱらから泣きついてきた。花木忠蔵はまたクレームの話しかと思い、「まずは落ち着けよ。で、どうしたんだよ?」と上司らしく聞き返した。すると山路は、今度は首をひねりながら伝える。
「実はアルバイトの変若水(おちみず)が……、突然消えてしまったんですよ。どうも失踪のようでして」
 朝一番からこんな報告を受けた花木、「うーん」と首を傾げ、あとは「ほー、消えたのか?」と呟くしかなかった。

 変若水とわ美(おちみずとわみ)、実に珍しい名前だ。
 年齢は二十八歳と聞いている。スラリとしたしなやかな姿態に、長い黒髪が似合う美人だ。その上に仕事の手は早く、花木は充分気に入っている。

 そんなとわ美をアルバイトではなく、本採用してやりたいと本人に申し入れたことがあった。だが、「今のままの方が縛りがなくって、良いのですよ」とやんわりと断られた。