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超短編小説  108物語集(継続中)

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「コーヒーでも如何ですか?」
 芹凛が沈黙を破った。百目鬼にはわかってる、推理を組み立て終えたのだと。「話してみてくれ」と促すと、芹凛は滔々と述べ始める。その要点とは……。

 すべては、うらみ、つらみ、ひがみ、ねたみ、そねみの五つの『み』の絡み合い。
 福神一郎からモラハラを受けていた妻の可奈はうらみ、つらみの果てに次郎と不倫関係に落ちた。

 そして資産家にはなれなかった弟・次郎、その上にゴースト写真家としてだけ兄から扱われてきた次郎、世俗を捨てて隠れ村に居住した。
 しかし、それだけでは人生終われなかった。積年の兄に対する五つの『み』、それらを洗い流すため、兄・一郎そのものが雨に落ちる――その事実を1枚の写真に凝縮させたいと思った。

 その五つの『み』の一蓮托生として、次郎は可奈に異なる犯行現場を入れ知恵し、6月14日に夫・一郎を自宅で撲殺させ、1日遅れの6月15日に川へと落とさせた。
 つまり雨による増水、流れは速くその日の夕刻には下流で発見されることを目論んだ。すなわち死亡推定時刻の精度を上げ、6月14日を確定させるためだ。
 だが、その決定的な瞬間を撮った1枚、可奈の先で、雨降る薄鼠色の背景の中、地獄へと落下して行く一人の男、なかなかの出来映えだ。
 きっと写真家の性なのだろう、次郎は投稿せずにはおられなくなったと思われる。

 百目鬼刑事、見てください、妻が夫を投げ捨てる暴虐の中で、ハッピー『い』と笑みまで捉えているわ。
 実に芸術性の高い1枚のフォトですね、と感想を。