超短編小説 108物語集(継続中)
高台にある公園の桜が、朝の鋭角に射し来る光に、意外にも淡いピンクの輪郭をぼんやりと浮き上がらせてる。そんな逆光の先で、女が一人フェンスに指を絡ませて、血みどろになり息絶えていた。
第一発見者は近所のご老人、いや愛犬だ。毎朝のこと、爺さんはこの公園まで散歩に来て、犬と戯れる。しかし、今朝は違っていた。リードから解き放たれた犬が一目散にフェンスに向かって駈けて行く。そして、こちらに来てくれと激しく吠え立てたのだ。
殺人事件、だが犯人の痕跡は何も残されていない。また被害者の夫は海外出張中であり、この背景がつかみ切れない。
このような事情で、モ−ニングニュースでは…、
『花咲き狂う東雲(しののめ)に、部長夫人──刺し殺される!』
東の空が紅く染まり始める早朝に、桜花を愛でる時間でもないのに、
なんのために夫人は、その時間に、この場所に出向き、
背後から刺されなければならなかったのだろうか?
なぜ? と、まことにミステリアスに報道された。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊