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超短編小説  108物語集(継続中)

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 季節は秋、ヤマボウシが赤い実をつける頃、町を貫く川の上流へと足を踏み入れてみよう。最初に水しぶき立つ滝に行き至る。

 そこで耳を澄ましてごらん。ケラケラと、水音がまるで女の笑い声のように聞こえてくるから。どうやら口紅をべっとりと塗った朱唇の大女、淫婦の霊の倩兮女(けらけらおんな)が水浴びしてるようだ。ボケッと眺めてると、遊んでくんなましと滝壺に引きずり込まれるから気を付けよう。

 それを無視し、脇道からさらに登って行くと、古い社がある。
「トン、トン、トンカラ、トン」、寂れた神苑から珍奇な歌声が。目を遣ると、全身包帯巻きの、日本刀を持った男が年代物の自転車に乗って歌ってるではないか。へたくそと横を向くと、「お前も歌え」と要求される。ここは適当に節を付けて、♪ ト〜ントン、トンカ〜ラ、トン ♪ と。さもなくば斬られてしまうぞ。

 あとは知らんぷりして先へと。すると「こっちだよ」と皿の目の一本だたらが跳ねながら手招きしてくれる。だが一本足のため、跳躍は百回が関の山。

 仕方なく「またな」と別れ、沢沿いに進むと、「おい、水飲め、茶を飲め」と背後から声が掛かる。振り返ると、おかっぱ頭のかぶきり小僧が突っ立ってる。こいつはムジナの化け物、ちょっと危ないから返事せず前進。すると洞穴の前へと辿り着く。

 中を覗いてみよう、医者二人が「どうも」「こうも」と言い合い、首を順番に据え変え合ってる。これは摩訶不思議だ、そこで質問を、「先生、どっちの首がお気に入りなんですか」と。すると医者はうーんと唸り、二人同時に首を外してしまう。とどのつまり、どうもこうもならなくなる。そう、この医者たちは幽鬼、どふもこふもなのだ。

 さらに奥へと入って行くと、紅い木の下で毛いっぱいとぬらりひょんが囲碁を打ち、横で琵琶牧々(びわぼくぼく)が変ちくりんな音楽を奏でてる。頭上の枝では怪鳥の以津真天(いつまで)が「いつまでいつまで」と鳴いている。