超短編小説 108物語集(継続中)
誠実そうで、なかなかのイケメン。そんな男が、まるで判で捺したような毎日、夕方六時にはきっちりと勤めから帰ってくる。
時間は充分ありそう。だが女の影はない。むろんデートに出掛けるところを見たことがない。三十歳前の割には、ちょっと気楽に暮らしすぎじゃない。
これが同じアパートに住む者たちの、高池陽馬に対する印象だ。誰かなんとかしてやれよ、とのお節介な声も聞こえてくる。
しかし、大きなお世話だ。
見掛けは飛び切りの暇人だが、陽馬の脳はいつも沸騰し、きりきり舞い。なぜなら作家志望、小説を書くことに精魂を傾けているからだ。
最近は出版しなくとも、ネット小説サイトに投稿できる。そして多くの閲覧者に読んでもらえ、時としてはコメントまで頂ける。自作品を世に出すことが実にイージーになった。
だが反面、これは陽馬のライバルがごまんといるということであり、とにかく間断なく新作がUPされてくる。
その中には駄作と思われる小説もあるが、ほとんどの作品は天晴れだ。そして時としてキラリと光る物語、傑作に出会うことがある。明らかに己の才能からは産み出せない書きっぷりだ。
結果、陽馬はこの後必ず惨めな自己嫌悪に陥る。
苦しい。だが最近、こんな打ちのめされた心情からうまく抜け出せるようになった。というのも、やっぱり自分風味の物語をコツコツと書き続けるしかない、と覚悟したからだ。いや、創作活動においては、こう考えないと次作品へと進めない、てなところもある。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊