超短編小説 108物語集(継続中)
急遽この事件に駆り出された百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)こと芹川凛子刑事は急ぎ現場へと入った。
そこにはいくつもの大きな水たまりが残り、木は倒れ、フェンスが45度に傾いている。まさに昨晩いかに風雨が強かったかを物語っている。
しかし一方で、この状況を解釈し直すと、血痕も足跡もすべては洗い流されたということだ。そんな状況下、現場検証を終えた芹凛がブツブツと。
「雨風により、犯行の痕跡はすべて消されてる、それを目論んでのこんな殺(や)り方、そう、裏になにか陰謀が隠されてそうで…、プロの狩人だわ」
こんな呟きを耳にした百目鬼、「殺人者を賞賛するな!」と窘(たしな)めてはみたが、考えてみれば、芹凛が感ずるところは当たってる気もする。そこで一つ突っ込む。
「大企業の社長はセキュリティの観点で絶対に単独行動しない。だがこのケース、一人で出掛けて来た、しかも台風の夜に。それは――なぜだ?」
芹凛は、犯人を狩人と主張した以上、答えを持っていた。ここは動じず、「罠ですよ。それが何かはわかりませんが、桐坂はどうしてもこの公園に来る必要があったのです」と言い切った。
百目鬼はこれに女刑事の鋭い嗅覚を感じたが、まだ核心を突いていない。
「ヨッシャー、桐坂は犯人が仕掛けた罠に嵌められた、そしてここで殺された、ならば、その罠は一体何なのか? もしこれがわかれば、捜査はぐんと前進するぞ」
「百目鬼刑事、その通りです」
こうして方針は決まり、二人は捜査に没頭した。
しかし、暴風雨の中の殺人事件、目撃者はいない、凶器は見つからない、犯人の足取りはつかめない。まさにないない尽くめ。進展はなく1週間が経過した。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊