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超短編小説  108物語集(継続中)

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 こんな記事を読んだアブラハムとリヴカ、なぜあのようなギロチンの夢で毎晩うなされたのか腑に落ちた。
「ねえ、アブラハム、あの時計、お宝品だったんだね。値打ちはどれくらいのものなの?」
 リヴカがちょっと惜しいのか訊いてきた。
「ああ、桁外れの骨董品だよ。そうだなあ、ゴッホの絵より高いと言われてるよ」
「ふうん、そうなの。ちょっと残念ね」と、リヴカは未練がましい。

「なあリヴカ、これで良いんじゃないか。ブレゲはマリー・アントワネットの約束を果たしたと、これから人たちは思い、また美術館でそれを鑑賞できるのだから。さっ、仕事に出掛けるぞ」
「そうだね。今日も頑張ってきてちょうだい」
 リヴカはアブラハムにランチボックスを渡す。それに応えるようにアブラハムは、今は悪夢から解放され、笑顔を取り戻した妻に「行ってきます」と軽くキッスをする。

 その瞬間だった、二人が結婚した時に買った掛け時計が……、聞き慣れた音で、ボーン、ボーン、ボーンと七つ打つ。
 その響きは――まったく普段通りで、穏やかなものだった。