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超短編小説  108物語集(継続中)

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 ある夜、リヴカが「うーう、うーう」と、寝汗をびっしょりとかき、うなされている。
「おいおい、リヴカ、どうしたんだ?」
 アブラハムはリヴカを揺り起こした。するとリヴカは泣きじゃくりながら訴える。
「恐い夢だったわ。高くて暗い塔に閉じ込められていてね、ある日そこから引っ張り出されて、群衆の面前で処刑台に登らされたのよ。髪は短く切られてるし、両手はうしろで縛られてるのよ。それからだわ、大きなギロチンの刃が……、ズドーンと落ちてきたのよ。あなた、助けて!」

「それって、斬首(ざんしゅ)の刑にあったということか?」
 これにリヴカは涙を零しながら、「そうなの、私何も悪いことしてないのに、首を……」と深く頷いた。
 だが、アブラハムは不思議だった。なぜなら同じような夢で何度となくうなされているからだ。しかし内容は少し違っていた。アブラハムの場合は当事者ではなく、オーディエンス側なのだ。

 民衆が見守る中、清楚な婦人が後ろ手に縛られ、断頭台のある壇上へと引っ張り上げられる。それを眺めていたアブラハムは、その懐中時計を握り締め、婦人に渡そうと駆け寄る。しかし、手渡す寸前に、頭上からギロチンの刃が落ちてきた。真っ赤な血しぶきが吹き上がる。広場では「共和国万歳!」と大歓声が。その歓喜の中で、アブラハム一人がその時計を堅く握り、無念の涙を流してしまうのだった。

 こんな二人の夢は一体どういう因果を持つのだろうか? 
 だが、その原因はアブラハムが買った懐中時計にありそうだ。時計そのものが何かに取り憑かれているようだ。まことに気色悪い。
 そして、今朝のリヴカからの叫び、「どこかへ売っぱらってきてちょうだい!」、これでアブラハムは手放すことを決心した。

 しかし、金と水晶で作られた年代もの、値打ちがあることには間違いない。そこでアブラハムはそれを美術館に持ち込んだ。