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超短編小説  108物語集(継続中)

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「こちらは、あいうえおの館って呼ばれてますよね。皆さん何をなされてるのですか?」
 紅梅がふっくらと蕾を膨らませてる。そんな玄関先で、百目鬼は亜瑠(ある)と名乗る女性と、最近その夫になったという管理人のオサムに質問した。

 男は愛想笑いをし、「左の部屋から亜瑠、そして伊吹(いぶき)さん、宇砂戯(うさぎ)さん、炎(えん)さん、一番右が私、オサムで、その頭文字を並べて、あいうえおの館なんですよ」と、ちょっと的外れに返してきた。それを察してか、亜瑠が補足する。
「私たちは文芸仲間です。だけど、それだけじゃ食べて行けませんので、私は家政婦をしてます。また他の三人はレジ打ちとか、デパ地下勤務でした」と。
 その一瞬だった、芹凛の目が獲物を狙う狐のように吊り上がった。

「デパ地下勤務……でした? なら、今は?」
 こんな芹凛の突っ込みに、亜瑠は「みんな、取材旅行に出てますわ」とシレッと切り返す。まさに雌狐と雌狸の一触即発、鬼の百目鬼刑事であってもここは出る幕がない。
 そして女の勘なのだろう、「生存されてることを証明できますか?」と芹凛が怯みなく問い詰める。

 されど亜瑠は淡々と「彼女たちのブログは更新されてるし、メールも来ます」と話し、「留守のお部屋の掃除代として、毎月10万円ずつの入金はあります。それに家賃も……」と最後をはぐらかす。
 この一瞬の不遜な間を芹凛は見逃さなかった。今度は真正面にオサムと向き合い、畳み掛ける。
「あら、随分と裕福になられたのですね。三人のお部屋をちょっと見せてくださいませ」
 男は脇が甘い。こんなテンポに乗せられて、「伊吹さんに宝くじが当たりましてね。まっ、どうぞ」と手招きをしてしまう。

 旅行中だという女性たちの部屋にはPCもない。見事に亜瑠によって痕跡は消されていた。それでも本人たちの物だと差し出されたサンプルをDNA鑑定したが、予想通り白骨と合致するものはなかった。