超短編小説 108物語集(継続中)
翌朝、新幹線に飛び乗った純一と陽子、寝てる内に京都へと着いた。駅近くで時間を潰し、午後3時26分発ののぞみ234号に乗車する。
満席だ。この盛況は猛スピード『X』のせい。純一は昨夜ネットで予約しておいたため、グリーン車の席で悠々と一眼レフカメラをセットし、すでに準備万端となる。横に座る陽子はもう開いた口が塞がらない状態。それでも駅弁を食べながら気分は上々のようだ。
のぞみ234号は時刻通りに発車し、米原を通過した。そして一面銀世界の中を走り行く。そんな時、きっと猛スピード『X』が現れたという運転手からの合図なのだろう、ピーと警笛が鳴る。それと同時に車窓から二人が目を凝らすと、キラキラ光る物体がスーッと舞い降りてきた。
パシャパシャパシャ、軽快音を伴わせ、純一がシャッターを切る。だが間に合わない。ヤツはそんな速さで、形を変化させながらのぞみ号を瞬く間に追い越して行った。
「ふう、速いなあ」と唸る純一に陽子が耳元で囁く。「私、あれが何なの知ってるわ」と。
えっと驚く純一に、陽子はさらに……。
「お爺ちゃんから聞いたことあるわ、きっと、時の神のクロノスよ。時の流れがいかに速いかを人間に知らしめるために、時々現れるんだって」
確かに、光陰矢のごとし。あれよあれよと言う間に、1日、1年、そして一生が終わってしまう。猛スピード『X』は宇宙の時を司る神だったのかと純一はどことなく納得できる。
そんな時に陽子が寂しそうに、「私たちが過ごした時間も、一瞬だったね」と呟いた。この嘆きを耳にした純一、もう堪らない。
「俺たちの縁を永遠にしよう、だから陽子…結婚して欲しい」
ついに純一からのプロポーズ。これに陽子は無言で深く頷くのだった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊