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超短編小説  108物語集(継続中)

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「お帰りなさい」
 優子は悶々としたままの杉村幸夫を、いや、貴史を普段通り迎えてくれた。しかし夕食後、幸夫はついに切り出す。
「知っての通り、俺は押木貴史ではなく、杉村幸夫だよ。これ以上貴史を演じても、優子を余計に惨めにさせるだけ。だから、貴史の事故の前の二人に戻ろう、つまり……、離婚しないか」

 それはあまりにも唐突だった。だが優子は驚く風もなく、「貴史を捜して、あの谷に辿り着いたの。その後私はあなたに巡り会ったわ。あの時、あなたは紛れもなく押木貴史だった。だから結婚したの。だけどこんな仮装劇、いつか幕は閉じると思ってたわ」と告白した。

 優子はこんな結末を予感していたのだろう。されども長年共に歩んできた夫婦、優子の目に涙が溢れ出す。これを目にした貴史、否、幸夫は今までの秘密のベールを剥ぎ取り、熱い愛情で優子をぎゅっと抱き締めた。それに応えてか、妻が囁くのだった。

「私は二つの戸籍を持つ男と暮らしてきたのね。だけど近頃、貴史への愛より、杉村幸夫の方に情が移ってしまったようよ。だから、あなたが罪を償い終えるまで、ここで待ってるわ」