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超短編小説  108物語集(継続中)

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 今は2050年、そんな社会通念が定着している。その証拠に、ありとあらゆる格闘技をテーマにしたイベントが流行り、事実人気を博している。

 洋介が朝ふと目にしたチラシ、本日、肉じゃが格闘技を催すと書かれてあった。格闘技にもいろいろあるが、「なんじゃ、これ?」と驚いた。さらによく読んでみれば、こんなことが書かれてあったのだ。

躑躅(つつじ)市と椿(つばき)市の肉じゃが格闘技
 どちらが新世代への本家となり得るか?
 両市の間に本家争いが勃発し、はや1世紀半が経過した。
 そして本日、その決着をつける日がやってきた。

躑躅市の主張
 1901年、東郷平八郎は海軍の鎮守府(ちんじゅふ)長官として躑躅市に赴任した。その時、脚気(かっけ)にかかった水兵が多かった。英国留学帰りの東郷は栄養価が高いビーフシチューを思い出し、コック長に命じた。「ビーフシチューを作れ」と。
 しかし、コック長はどのようなものかわからない。とにかく肉とジャガイモを醤油と砂糖でぐつぐつと煮込んだ。これが日本最初の肉じゃがであり、躑躅市が本家であります。

 躑躅市はこう主張してきたが、椿市がこれに待ったをかけた。

椿市の主張
 東郷平八郎はその10年前に鎮守府参謀長として椿市に赴任していた。その時すでに官舎で肉じゃがを振る舞っていた。だから紛れもなく椿市が本家だ、と。

 どちらが本家か、両市とも譲らず、なんと150年間も泥沼の肉じゃが戦争が続いてきた。しかし、これに辟易としていた人たちは決意した。ここは「肉じゃが格闘技」で勝敗を決しようと。

「おっおー、これって結構面白そうじゃん」
 洋介には野次馬的な興味が……。しかし、主催者はぴしゃりと付け加えていた。
 今回の肉じゃが格闘技、単に発祥地を決めるだけでない。
『伝統と未来ある肉じゃが』、それにふさわしい本家を決めることにあると。