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超短編小説  108物語集(継続中)

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「龍馬、あしたの朝は早いぞ、もう寝ようぞ」
「はい、先生、そうしましょう」
 二十八歳の竜馬は、師と仰ぐ勝海舟に殊勝に答えた。そして、本殿の仏間から漏れくる薄明かりの中でそろりと瞼を閉じた。

 時は文久四年(1864年)、疾風怒濤の幕末だった。
 というのも、英、米、仏、蘭の四カ国による下関砲撃が続き、幕府はそれを中止させるため、わざわざ長崎まで出向き、勝海舟にその交渉にあたれと命を下した。
 これを受けた勝は、その後海軍塾・塾頭の坂本龍馬を伴い神戸港を出帆し、二月十五日に豊後国(大分)の佐賀関に着船した。そして徳応寺にて一泊の止宿、今世話になっている。

 龍馬にとって九州は初めての旅。その興奮が冷めないのか、なかなか寝付けない。そっと目を開き、横で眠る勝海舟を窺(うかが)ってみる。鼾(いびき)をガーガーとかき、とうに深くて心地よい眠りの中にあるようだ。

「さすが先生、肝が据わってらっしゃるわい」
 龍馬はそう呟き、かっと目を見開き薄暗い天井を睨み付ける。それから決意を新たにするかのように言葉を絞り出す。
「きっとこれで良かったのだ。とにかく拙者には……、この道しかなかった。これからも、ただ一途に進むしかないのだ」

 龍馬は踏ん切りを付けたかのように、ぎゅっと目を閉じた。されども今までの出来事が走馬燈のように浮かんでは消えていく。