超短編小説 108物語集(継続中)
渓谷の夜はなかなか明けない。それでも朝となり、幸吉は空気の入れ換えのため窓を開ける。明け方に一降りあったのだろう、目の前に真っ黒な川が見える。その瞬間、悪い予感が脳裏を過ぎる。
すぐに玄関へと。するとスリッパの上に一枚のメモが置かれてあった。いつの間にか愛花が涙を流し、幸吉のそばに。
幸吉は愛する婚約者を力強く抱き寄せて、目を落とすと、そこには閻魔大王に捧げる詩があった。
彼は誰時の雷雨で
冷涼な渓流は真っ黒に
そんな朝
愛花の花嫁姿
それを見る夢に――幕を引き
身を投じよう
そして旅立とう!
ずっと地獄を彷徨ってる……、元夫のもとへ
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊