超短編小説 108物語集(継続中)
「そろそろね」
福夫がアパート近くの公園で夜空を見上げていると、横のベンチに座る若い女性から囁きが聞こえてきた。
熱帯夜、どうも寝付きが悪い。気分転換にとベットから抜け出して、ふらりと出掛けてきた。
天空の天の原には夏の大三角形、ベガ、アルタイ、デネブが輝き、それを貫き、天の川がどっかと横たわる。
都会から見上げる宇宙は決して煌びやかなものではない。それでも今夜は、その壮大さに福夫は見取れてしまってる。
そんな時に唐突に、暗がりの向こうから見知らぬ女が囁いた。そろそろね、と。
一体これは何だ?
福夫がそっと窺うと、膝の上に何かを乗せている。察するに、それが女の囁き相手のようだ。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊