超短編小説 108物語集(継続中)
都会から遠く離れた山里、夏の夜空には天の川が横たわり、地上の清流では蛍が群舞する。平家の落人たちが細々と暮らしてきたと言われる小さな集落で、殺人事件は起こった。
「この川縁で、夜に光るもの、それは蛍だけです。だけど昨夜、向こう岸の草むらでポーポーと妖しく光ったのですよ。何だろうと見に行ったら……、倒れられてました」
第一発見者の平貴蜻蛉(ひらきかげろう)と名乗る20歳そこそこの女性から、捜査一課の百目鬼刑事は現場説明を受けた。
蜻蛉は村興しのためこの村で観光部門を担当しているという。いずれにしても黒髪に抜けるような肌を持つ。なぜこんな山峡の地に、これほどまでの典雅な女性が、とあらぬ想像を巡らせる。
そんな美姫に百目鬼が目を見張ってると、部下の芹凛こと芹川凛子刑事が走り寄ってきた。
「百目鬼刑事、被害者の身元がわかりました。今絶頂のトップアイドルのユーリンです」
芹凛がゼーゼーと息を切らせてることから、百目鬼はこれは大事件だと察した。そして思い出した、仏さんの顔をTV画面で見たことがある。確か不可解な歌を唄っていたと。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊