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超短編小説  108物語集(継続中)

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 大文字、今年も8月16日午後8時丁度に点火された。点々としていた炎が5分後には繋がり、赤々と燃え盛る大の字を夜空に浮かび上がらせる。
 そんな夜にミライはホテルの一室で絶命した。
 古都はその冷たい亡骸越しに、霊(くし)びな情景にしばらく見入っていたが、あとは指紋を拭き取り、すべてを背にして部屋から出て行った。

――ミライ、新時代を切り開く、アバンギャルドなシンガーが毒殺される――
 翌日、こんな号外が街で配られた。
 澄んだ声で、語り掛けるように唄うミライ、抜群の歌唱力の持ち主だ。

 古都とのコンビ解消後はソロ活動をし、ファンを増やしてきた。そんな歌姫が昨夜殺害されたという。人々は仰天した。
 即刻捜査一課にチームが結成され、百目鬼刑事も招集された。そして不仲だと噂がある古都に、事情聴取の要請が掛かるのにそう時間を要しなかった。

 その古都の主張とは……、
 私は車の運転が大好きで、8月16日は愛車を走らせ、翌日のライブに参加するため一人東京から京都の手前にある大津へと向かっていました。その行程は新東名を通って、豊田ジャンクションから伊勢湾岸道へ、それから新名神を使い草津へ、そこから名神高速道路の下り線へと乗り移りました。

 もちろん安全運転で、午後4時頃静岡のサービスエリアで休憩を取ったりして、夜の9時過ぎに大津の出口を通過しました。
 その時、うっかりETCゲートでなく、一般出口に進入してしまい、困っていたら係員が現れ、助けてくれました。
 高速道路の一人での移動です。だから車を放ってどこかへ行くことはできませんし、京都でミライが殺された午後8時過ぎは――まさにオン・ザ・ロードだったわけです。