超短編小説 108物語集(継続中)
「星が煌めいているわ。ここでも宇宙が近くに見えるのね」
陸(りく)がオフィスビルの屋上で何気なく夜空を眺めていると、背後からさりげなく囁かれた。だが、あまりにも唐突で、心臓がドキンと打つ。その驚きを隠し、陸が振り返ると、そこにはスラリと背の高い女が立っていた。
最近世界は緊迫状態が続いている。陸は国家機密機関に勤める情報部員。昼夜を問わず情報収集に追われ、今夜も徹夜になりそうだ。そんな中、息抜きにと屋上まで上がってきた。
「星から星へと、もし旅できたらいいですね」
女はこのビルのどこかに勤めてるのだろう、ここは当たり障りなく、それでも少しキザに返してしまった。これに女はフフフと意味ありげに笑う。
それにしても真っ白なワンピースを着こなし、そこはかとなく色香を放つこの女、決して国家うんぬんに関わってるようには見えない。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊