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超短編小説  108物語集(継続中)

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 しばらくして、芹凛が天を睨み付けながら現れた。
 百目鬼はわかってる、こんな女魔神のような形相の時は犯行の推理をおよそ組み立てたのだと。されども「消火器2本はガス4キロ、それじゃ死ねねーよ」と先回りして念を押した。しかし、芹凛はこんな意地悪発言に怯まず語る。

 二酸化炭素の致死量は7%。六畳間の容積が40立米としたら、大気圧下の気体密度から計算して、死に至るには約6キログラムの二酸化炭素が必要です。
 その内の4キロがまず消火器から放たれ、残りの2キログラムはドライアイスからよ。
 ドライアイスが気体になる昇華速度は遅く、1キログラムに4時間かかります。したがって2キロなら8時間、これで死亡時刻を調整しました。つまり夜の8時に仕込んで、明け方4時の死亡を目論んだのです。

 悦子が笠井に睡眠薬を飲ませ、密閉した和室に閉じ込めた。2本の消火器を開け、さらに賢が運んできた2キログラムのドライアイスを置いた。これにより笠井は午前4時に死亡。
 翌朝訪ねて来た愛子、自ら部屋を荒らし、夫の死体にナイフを突き刺して、強盗殺人事件を偽装しました。

 だけど愛子の動機がわかりませんし、悦子が本当にストーカーされていたのか疑問なのですよね。

 ここまで一気に述べ、ふうと息を吐く芹凛に、百目鬼はギラリと眼光鋭くする。
「悦子という女は、依頼された獲物に、愛人のように近付き、殺戮(さつりく)する――プロの殺し屋ってことだよ。今回の依頼人は保険金目当ての妻の愛子。賢は単に利用されただけだな」

 こう解いた百目鬼刑事、若い芹凛が結婚に失望しないようにと、久し振りに思いやる眼差しで活を入れるのだった。
「さっ芹凛、すべてはまだ仮説、こういうケースもあるってことで、証明しよう」と。