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超短編小説  108物語集(継続中)

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「おはよう、ゴミ出してくれた?」
 そんな時に妻が起きてきた。
「イエス、ハニー」
 凛太郎がニコッと笑い返すと、すぐに追加指示が飛ぶ。「あなた、車で、4枚切りの食パン買ってきてくれない」と。

 ぶ厚いトースト、それは遠い昔の恋愛時代からの麻伊のコダワリ。たとえ火の中水の中、いやバケツをひっくり返したような雨の中でも買いに行かなければならない。さもなくば後の仕打ちが恐い。それでも凛太郎は精一杯の反発を込めて、「まあ、いいけど」と中途半端に答えた。これに麻伊は何食わぬ顔で新コマンドを発する。
「車はガレージに戻さず、外へ出しておいて――洗えるから」

 ウッウー、凛太郎は思わず息を詰まらせた。
 確かに洗車、激しい雨の利点としては、植木に水やりより一枚上、いや極上だ。それにしてもダム崩壊の危機にある中で、堂々の洗車、そんな発想ができるとは…。

 ザアーザアー、窓の向こうは雨脚が一段と強まる。麻伊がその様子を見て、「篠突く雨って、ホント、ありがたいわ」と呟く。凛太郎はそれにポツリと独り言ちる、「参りました」と。

 それから車のキーを手に取り、今日一日の日常というの時の流れの中へと、身を埋没させて行くのだった。