超短編小説 108物語集(継続中)
ここまでを振り返っていた百目鬼、やにわに「増水で岩は水面下。岩で頭は打たないぞ。だから、これは殺人事件だ」と口火を切った。これに芹凛は、謎は解けたわと手を上げた。
さっ、その推理を、と百目鬼が目配せすると、芹凛は大きく深呼吸し、ゆっくりと己の思う所を述べ始める。
すべては花坂の妻の陰謀。
まず夫婦の良縁を取り戻そうと夫を誘い、合縁奇縁荘に二人で泊まった。もちろん妻は特別料金で予約していた。
すなわち――殺人付き宿泊プラン:推定1泊500万円。
花坂の自宅の鍵を預かった女将、その夜、花坂の家へと出向き、固定電話より宿に電話した。直接花坂と会話せずとも通話記録だけは残るため、これで花坂の妻は在宅していたというアリバイが工作された。
そして翌朝、激しい雨降る中、宿の主人は花坂夫妻を天魔堂へと案内した。そこで念じて、まるで花坂の妻と宿の主人に縁切り婆神が取り憑いたかのように、その帰り道、この二人は花坂を鶯橋の上で撲殺した。そして川へと投げ落とした。
以上が七つ雨殺人事件です、と締め括った芹凛に、ブラボーと声が飛ぶ。だが芹凛は、凶器が何なのか、自信がない。
ここで百目鬼はニッと笑い、「凍らせた2本のペットボトルだよ。発見時には普通のお茶に戻ってたがね、チャンチャン」と軽い。これに反し、いつも強気の芹凛が殺人付き温泉宿の存在にどことなく脅えてる。
こんなちょっと可愛い相棒に、百目鬼は活を入れるのだった。
「仮説は今のところ事実ではない。さっ芹凛、ひるまず、一つ一つの真実を明かしに行くぞ」
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊