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超短編小説  108物語集(継続中)

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「お父さん、紹介するよ」
 慶太がリビングでくつろいでいると、背後から息子の拓夢が声を掛けてきた。えっと振り返ると、若い女性が息子に寄り添い立っている。
「花瀬玲奈と申します」
 ペコリと頭を下げ、長い髪をかき上げながら面(おもて)を上げた。端正な顔立ちに緊張が窺える。慶太はこの様子から察し、息子がやっと生涯の伴侶を見付けたのかと。

「拓夢ったら、お嬢さまを突然お連れするものだから……」
 妻の洋子が語尾を途切れさせたまま紅茶を運んできた。それから談笑し、一区切りついた時に、「ご両親は何をされているの?」と訊く。玲奈の表情が微妙に曇る。
「父は祐也、母は亜矢と申します。小さな会社を経営していましたが、三年前に二人とも他界しました」
 当然親として知っておくべきこと。だが、これを耳にした慶太も洋子も思わずのけ反った。それに拓夢が「えっ、玲奈のご両親のこと、知ってるの?」と顔を突き出す。

「ああ、二人とも会社の同期でね。亜矢さんは旧家のお嬢さん、祐也君は中途退社して、そこへ養子に入ったんだよ」
 慶太は一応答えたが、既に亡くなっていたとは仰天で、次の言葉が見付からない。そんな狼狽を気遣ってか、玲奈は「父と母が私をここへ連れてきてくれたのですね」と笑みを浮かべた。それから小指をピンと立て、カップを摘まみ上げた。その仕草を目にした洋子、そう言えば亜矢も小指を立て、いつもディンブラを飲んでいたわ、と玲奈に亜矢を重ねた。