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超短編小説  108物語集(継続中)

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 確かに昭和、いろんな出来事があった。洋介は婦人が話す一つ一つが懐かしい。しかし、一番の思い出はやはり桜の木の下で、妹と初めて食べたたこ焼きの味だ。あれが俺にとっての昭和だと思っている。
 すると婦人は洋介のセンチメンタルに気付いたのか、「最近、静かに花を愛でる人が増えたんだよ」と言い、腰を上げた。
 それから微笑み、「それじゃ、来年もお会いしましょう、……、洋介君」と。

 えっ、このご婦人が、なんで俺の名前を知ってるの?
 洋介は不思議で、歩き始めた婦人の背に「どちらさんでしたか?」と声を掛ける。それに応え、婦人は振り返り、きりりと姿勢を正す。
「チェリーと申します」

 チェリーって……、洋介がこの桜に名付けていた名前、知恵理?
 これって、どういうこと?
 きょとんとした洋介に、婦人はさらに――、「妹の美希ちゃんも時々ここへ来るんだよ。いつか会えたらいいね」と。

 その瞬間、一陣の風が吹く。
 花びらが夜空へと舞い上がり、婦人はその下を通り抜け、
 昭和、平成、そして令和への樹齢90年、その祇園の夜桜、一重白彼岸枝垂桜(ひとえ しろ ひがん しだれざくら)へと消えて行った。