超短編小説 108物語集(継続中)
譲二は晴れた日に、都心の高層ビルの屋上へと登った。
エレベーターでなく階段を上がったため、この登ったという表現が当たっているだろう。そして息を切らせ、複雑な思いで景色を眺め入っている。
遠くにそびえ立つスカイツリー、濃い緑に映える流線型の新国立競技場、そしてお台場に霞む選手村、それらが実に美しい。が、……。
2020年の夏、東京オリンピックは開催されるはずだった。だが、こんな事になろうとは、誰が想像し得ただろうか?
町のあちらこちらには暴動の爪痕があり、車は無秩序に放置されたままとなっている。多くの人たちが行き交った表通り、もう人っ子一人いない。東京はまさに荒んだ廃墟となってしまったのだ。
譲二はこんな町でスーパーに残された僅かな食料で生き延びてきた。しかし、ここまでが限界、この後友人を頼って、旅立つことにしている。
「辿り着けるかなあ?」
行く先を遠望し、不安を募らせる譲二、それは当然のことだ。なぜなら、かっての通信手段は使えず、友人が生き残っているかどうかも不明。
その上に徒歩の旅、途中山賊に襲われる可能性もある。譲二はおののき、身をブルブルと震わせた。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊