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超短編小説  108物語集(継続中)

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ところが、そんな女を目で追ってる男Aに運転手が声を掛ける。
「お客さん、前回もそうだったのですが、なぜこんな遠回りをして帰られるのですか?」
 男はおかしなことを訊く運転手だと思い、「そりゃあ、女性をこんこんちき山へと送るためですよ」と突っぱねた。
「えっ、女性をって? 誰もいませんよ。乗車された時からお客さん一人ですよ」

 男は最初運転手が何をほざいているのかよくわからなかった。それでも頭を巡らせ、もう一度運転手に確認する。
「ホントに……、俺一人なの?」
「なんなら防犯用の車内録画がありますから、それお見せしましょうか」
 こんなやり取りの末に男は映像を確認する。確かに女なんていない。まるで一人芝居をしているようだ。男はショックだった。
 なぜだ! 男Aはこの事態がどうしても納得できず、タクシーを降り、女を追いかけた。
 そしてその後、男Aの姿を誰も見たことがない。
 ただ何年か後に、こんこんちき山で、鋭い歯で噛みちぎられた白骨が発見されたとか。

 それからのことだ、町で噂されるようになった。
 こんこんちき山にはいけない女狐が住んでると。
 雨の日は猟がなく暇で、女優に化けて、ふらりと独身男を拾いに来る。
 特に、出てしまった最終バスを待つ女、この演技が上手いそうな。