小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

超短編小説  108物語集(継続中)

INDEX|277ページ/761ページ|

次のページ前のページ
 


 綾音と何度も呼んだが応答がない。良樹は靴を脱ぎ捨て、襖を開けた。するとそこに、仏壇の前に座り込んだ綾音がいた。振り返りもせず、いきなり涙声で訴えてくる。
「お母さんが徘徊して……、その日、私探しに行けなかったの。そしたら川に落ちてて、私が……、殺してしまったのよ」

 良樹は綾音が不憫でならない。とっさに駆け寄る。
「もういいんだよ、綾音。お母さんが苦労を掛けまいと、命を絶ってくれたんだよ」
 音信不通だった二人の10年、あっという間にどこかへ消えてしまった。
「お兄ちゃん、ありがとう」
 綾音は少し落ち着きを取り戻したのか、良樹に向き合った。くりくりした目の少女はもうそこにはいなかった。泣きはらしてはいたが、涼やかな瞳を持つ女性が良樹を見詰めていた。

 だが、いかにあろうが、二人の関係は男と女ではない。どこまで行っても兄と妹だ。そのためか、幼い頃一緒に昼寝したように、その夜良樹と綾音は一つの布団で寝た。
 良樹は妹の不安を消し去るために、ずっとずっと愛おしく抱き締めた。その甲斐あってか、やっと安堵したのだろう、綾音からスースーと穏やかな寝息が聞こえる。

 翌朝、良樹が目を醒ますと、トントンと漬け物を刻む懐かしい音が聞こえてくる。綾音が朝食の用意をしてくれているのだ。起き上がって行くと、テーブル上にお握りが並んでる。
「お兄ちゃん、途中でお腹空くでしょ」
 良樹は「その通りだよ」と答えたが、綾音にあとの言葉が続かない。

 綾音にはわかってる。良樹には都会での生活があり、これ以上は引き留められない。結局は、そんな擬似的な兄と妹なのだと。