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超短編小説  108物語集(継続中)

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 白いビルと黒いビルの間に、巾六〇センチほどの犬走りがある。それは反対側の大通りへと通じている。そしてそこには少し違った世界がある。
 こんなことを知っているのは魔美(まみ)だけだった。

「遅いぞ、さっさとコーヒー入れろよ!」
 時間通り出勤してきた魔美に、高木係長から居丈高な指図が飛んできた。
 魔美はこの雑誌社に入社してまだ二ヶ月、新人だ。従って、朝から不機嫌な係長の要求も「はい」と素直に聞かざるを得ない。

 しかし、この部に配属され、繰り返されてきたパワハラ、まるで菩薩のように優しい面差しをした魔美であっても、もうウンザリだ。
 それでも魔美はふんぞり返る高木のデスクまでコーヒーを持って行った。そしてじわりと係長にすり寄る。
「ねえ、私もそろそろ取材したいわ」
 新人らしからぬ囁き、それがあまりにも甘ったるく、「どんな取材だよ?」と訊く係長、朝っぱらからその目つきが下品なものになる。

 これに魔美は負けじと「百鬼夜行です」と言い放つ。
 これは新人の精一杯の自己主張、高木が一応「百鬼夜行って、妖怪が行進するやつか?」と問い直す。そして魔美の香りに毒気を抜かれ、「アニメチックで面白そうだな」と寝不足の目をにぶく光らせる。

「係長、今日は六月巳日、百鬼夜行日なのです。だから今晩行進がありますよ。ご一緒しませんか?」
 魔美からの突然の誘いに高木の胸は高鳴る。「どちみち嘘だろ。だけど連れてけよ」と横柄さは変わらない。