超短編小説 108物語集(継続中)
「3、3、3、なぜ『3』は俺の前から消滅したのだ!」
単身赴任の殺風景な一室で、缶ビール片手に、太一郎は犬の遠吠えのごとく叫んだ。
そう言えば、最近のゴルフのこと、ショートホールでパーの『3』が取れない。しかもミドルのバーディーの『3』も、とんと縁がない。
「いやいや、これは腕が悪いから……、だよな」
こう思い直したりもしてる時に、部下の榊原(さかきばら)が話していたことをふと思い出す。
先週のことだった。生意気な部下であっても、たまには食事くらいは奢ってやろうかと、連れだって焼き肉店へと入った。
そしてタン塩にレモン汁をたっぷりかけながら榊原が訊いてきた。
「太一郎さん、知ってますか? 最近の科学の発展でわかってきたことですが、宇宙を司(つかさど)る神から与えられた人間の宿命ってやつ。それ、何だと思います?」
太一郎はこんなことを唐突に尋ねられても訳がわからない。そこで網の上の肉の焼き具合を確認し、ひっくり返す間を取って「その大袈裟な宿命って、何だよ?」と部下の顔を見た。すると榊原はニッと笑い、タン塩2枚を摘まみ上げ。素早く口に持って行く。そして、あとはおもむろに……、
「数字って、0、1、2、3と始まり、その後は百、千、万、億と途切れることなく無限に続いて行くと思ってるでしょ。だけど、それぞれの人には、1年周期で変わって行く、欠落した数字ってのがあるのですよ」
太一郎は特に興味があったわけではないが、「ホッホー、いわゆる欠番だね。それは大変だ」と大袈裟に反応してやると、榊原は今度はロース3枚を口一杯に放り込み、幸せそうにニタつきながら……、
「例えばですよ、その欠番が768,924のような大きな数字だったら、日常生活に実害は出ないでしょ。だけど、時々神さまは気まぐれで、小さな数字を割り振ってくることがあるのですよね」と。
太一郎はこんなくだらない話しに、「そんなのどこかの三流週刊誌の記事だろ」と結論付けた。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊