超短編小説 108物語集(継続中)
こんな出来事の後、小指立て夕子は改心し、スリ業から抜け出した。そして夕子は銭形の花嫁となることができた。
それからウン十年、妻として幸せに暮らしてきた。
されどS−1グランプリで優勝まで果たした夕子、時々指先がムズムズとこそば痒い。
そんな時は、ダンナの財布から1万円札を1枚抜き取ることにしている。
その一瞬のことだが、昔取った杵柄、きっと名残なのだろう、小指が立つのだ。
ただ娘時代とは……、ちと違う。
どすこい、どすこい!
それは白魚のような指ではなく、そう、幸福の証、まるでお相撲さんのような小指がド、ド、ドーン、とだ。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊