超短編小説 108物語集(継続中)
バリバリバリ……、ドカーン!
朝方の薄暗い部屋に霹靂(かみとき)の電光が走り、天鼓(てんく)が轟き渡る。近くで落雷したのだろう。
「ウッセイなあ」
ベッドの中で、高見沢一郎は不機嫌に独り唸り、重い瞼を開けた。
そして……、ギョッ!
口から心臓が飛び出すほど驚いた。
ベッドの脇に、一人の男が……立っているではないか。
さらに高見沢は度肝を抜かれる。よく見ると、ヤツは高見沢自身ではないか。
これは、ひょっとすれば、幽体離脱という現象?
それにしても、まるで狐につままれたようだが、ここはサラリーマンを生業(なりわい)としている高見沢、こんな場面でも、いつもの調子の、ヨイショの言葉を掛けてしまう。
「えっと、どちらさまの社長さんでしたっけ?」
すると男は実に馴れ馴れしく言う。
「俺だよ、C星のおまえだよ」
高見沢は何のことかさっぱりわからない。
「ほう、私ですか。ところで、C星って、……、どこの県?」
こんなトンチンカンな質問を受けた男は口をポカーンと開け、まことに呆れ顔。その後、高見沢の記憶を蘇らせようと語り出す。
「地球の一郎、おまえ忘れてしまったのか? C星は20光年先にある獅子座の星だよ。まるで鏡に映ったように、C星は地球が裏返ったようなもの。何もかもが同じなんだよ。最近ホームセンターで、やっと時空トンネルが販売されるようになってなあ、何はさておき一番に、地球の俺に会いに来てやったんだぜ。少年時代、一度C星に行ってみたいと、おまえは夢見てたんだろ」
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊