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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それでも榊原の表情が晴れない。と、なると、イッチョ噛みたくなるのが関西系上司のDNA。
「お前、女性スタッフから、妖しい本命チョコでももらったのか?」

 たとえ部下のスキャンダルであっても、それは興味津津。だが滅私奉公のサラリーマン、オフィス・ラブは御法度だ。この掟を破れば会社追放となる。
 その上にだ、部下が色恋沙汰を起こしたとなれば、これは上司の監督不行届。査定はD評価となり、給料は減額に。ここは看過するわけにはいかない。

「お主、ここのお屋敷の……、おなごはんと契ったな。しかと吐露(とろ)せ!」
 高見沢、ここは威厳を持たせ、人形佐七捕物帖風に事情聴取。それにしても榊原、こいつもかなりの調子乗り。

「旦那、それはいわれなき濡れ衣というものでござんす。されどこの期に及んで、本命チョコよりもっと心苦しきチョコを頂き候、ですねん」
 語尾が滑ってるにも関わらず、こんなことを宣(のたま)いやがって。あとは「これ、おひとつ」とチョコを差し出してきた。高見沢は一粒口に放り込む。

「なんやねん、これっ!」
 驚きの表現は関西弁がイッチャン。だが、それはそれとして、えづくほど甘いのだ。これに榊原は「実は、うちのカミさんからのチョコなんですよ」と、気持ちが大変重そう。

「そうか、榊原もついに『妻チョコ』をもらってしまったか。それは一大事だ」と、高見沢は同情的リアクションをする。これに「人生長くやってこられた先輩! 『妻チョコ』の扱い方をご教授ください」と榊原が手を合わせてくる。

 ここまで懇願されれば、「じゃ、迷える子羊のために、『妻チョコ』の対処方法を教えてやろう」と高見沢は満更でもない。それからだ、オヤジ臭い訓話が始まったのは。