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超短編小説  108物語集(継続中)

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 清流に迫りくる紅葉が真っ赤に色づき、まことに美しい。それに心が癒やされたのか、茶屋で一休みする寛と志ょうは一服の茶を楽しみながら、穏やかな時の流れをやり過ごしている。

「寛さん、ここらでどうですか、記念に一句詠んでみませんか?」
 結婚してもう31年の歳月が流れた。50歳を超えた志ょう、20歳の時に堺の旅館で行なわれた歌会で寛に出逢った。そして不倫となり、前妻の竜野から、言葉は悪いがこの男を略奪した。

 そんな夫と歩み重ねてきた幾星霜、夫はもう還暦に近い。最近どうも弱ってきたようだ。ひょっとすれば鞍馬山に登れるのもこれが最後かも知れない。そんな心の内を隠し、「一句詠んでみませんか?」と促してみたのだ。
 妻からいきなり勧められた寛、「どうだろうかな」と躊躇しながらも、懐より短冊を取り出した。そしておもむろに……。

『遮那王(しゃなおう)が 背くらべ石を 山に見て わが心なほ 明日を待つかな』
 寛はこう筆を走らせた。そして与謝野鉄幹と名を添えた。

「これ、どうだろうか」と短冊を手渡された志ょう、思わずぷっと吹き出してしまった。あまりにも幼稚で、深みがないのだ。まるで写生だ。