超短編小説 108物語集(継続中)
昭和七年(1932年)の秋、寛(ひろし)と志(し)ょうは鞍馬寺を訪ねた。もう幾度も来ているが、今回は鞍馬の門前町から入山し、貴船(きぶね)へと下りた。
俗界から浄域への結界、その仁王門を超え、清少納言が「近うて遠きもの、くらまのつづらおりといふ道」と記した九十九折(つづらお)り参道を登った。
そして本殿金堂へと。ここは毘沙門天王、千手観世音菩薩、護法魔王尊の三身一体が本尊であり、尊天と称されている。尊天はこの宇宙のすべてを生かすエネルギー、森羅万象を支配する力だ。
寛と志ょうの二人はここでパワーをもらった。そしてさらに奥へと。
そこには義経の脊比べ石がある。それを見ながら木の根道を歩き、奥の院魔王殿へと辿り着いた。ここは650万年前に金星より魔王尊、サナト・クマーラが降臨したとされている。このようなミステリーの聖域で、二人は霊験をあらたかにし、貴船へと急な坂を下った。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊