超短編小説 108物語集(継続中)
「ねえ、亮介、私はA社の秘書、あなたは競争相手のB社の営業部長でしょ。寡占状態にある会社の社員がこのように密会してるって、しかもホテルのベッドの中よ。これって法的にも……、罪を犯してることになるんでしょ?」
阿沙子は、髪を撫でる亮介の手を振り払いながら、ボソボソと呟いた。
「ああ、立ち話しだけでも、価格カルテルの疑いで睨まれるぜ。独占禁止法違反だよ」
こう言い切った滝川亮介、阿沙子が急に産(うぶ)に見えてきたのか、ぎゅっと抱き締めた。
「そうよね、競合会社の価格情報をUSBメモリーに取り込んで、私なんか役員の机の下に落としておくのよ。それで退社時に、オヤジが独り吐くんだよね、たまたま拾った情報によると、あと1パーセント高くした方が良いんじゃないかってね。これをまた寝物語で話して、その結果、市場では高価格が保たれてるわ。確かに今の生活は保障されてるけど、独禁法疑惑が会社に掛けられたら、亮介と私の艶事(つやごと)、どういう情報交換があったのか知りませんと連中は逃げるのでしょうね。罪だけ被せられて……。亮介、私たちこれからどうすればいいの?」
亮介は阿沙子にこう問い詰められたが、答えを持ってない。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊