超短編小説 108物語集(継続中)
「ありがとう」
今宵はフランス料理のクリスマス・ディナー。涼太(りようた)はシェリー酒を一口飲み、あらためて世話になってるお局さまの真奈(まな)に礼を述べた。
だが真奈はアベリティフで口を潤しながら「うん」とだけ頷いた。そしてオードブルのフォアグラにナイフを入れながら、自虐的なことを言う。
「だけどね、私は結局、蟻みたいなものだったわ」
涼太は真奈が唐突に吐いた言葉、蟻の意味がわからない。「それって、なに?」と小首を傾げる。
「だって、蟻ってちっちゃいけど、生きるために一所懸命でしょ。私によく似てるわ」
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊