遥か彼方【詩集3】
愛しき世界
雨が降った
世界がすっかり洗われて
空が高くなった
狭いビルの隙間から小さな月が見える
冷たい風が頬に心地よい
我が愛しき汚れた世界
帰宅の途中なのか、せかせかと歩く人
うつむいてゆっくりと道をたどる人
たくさんの買い物を抱えて、楽しそうに歩く人
笑いあいながらそっと寄り添うふたり
街角の飲み屋からは酔っぱらいの笑い声
道路にあふれる車の騒々しいクラクション
夜の闇をまばゆく照らすネオンの光
もしもノアの洪水が世界を全部洗い流したら
もしも核の炎が世界をすべて燃やし尽くしたら
世界はきれいになるのかな?
誰一人いなくなった世界では
それを確かめる人もいないだろうけど
そのときは私もひとやまの土くれになり
愛しき人々と共に
愛しきこの世界の一部になるだろう