深海の熱帯魚
私は彼に追いついて顔を覗き込もうとするが、それもかなわないぐらい、彼の歩みが早い。渾身の力を込めて私は走った。砂を蹴って走って彼の前に回り込んだ。
息を切らせて見上げた彼の頬は、月明かりと照明に照らされて、今までに見た事が無いぐらい、引き攣って、真っ赤に染まっていた。
「どうしたの......」
手を繋いだまま、呆けたように彼の顔を見ていると、さっと横を向いて顔を隠した。
「何でもない。急いで歩いたから暑くなった」
涼しい海風が頬を掠める海岸線で、暑くなったという言い訳は何だか、彼らしい嘘だなぁと思った。