駅
あなたがいた時のあの頃のこと。
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめる音だけが響く。
真夏はグリーンの毛糸の手袋を外して、ipodの曲を意図的に変えた。
どうしても聞きたい曲があったのだ。
ELTのTIME GOES BYを聴き始める。
畑の土真ん中にあるこのJRの駅。真夏はここから学校へ通学している。
プレハブの待合室のドアを開けると少し暖かかった。もちろんストーブなどない。
しんしんと降り積もる、とはこういうことを言うのだろうか?頭の片隅で降り積もる雪を眺めながらそんなことを考えていた。
曲もサビに差し掛かった。
真夏は静かに目を閉じる。
喧嘩ばかりしてたけど、それでもずっと一緒にいた。
小さな頃からひとつき前まで。
それは些細な事、だったのかもしれない。
そしてそれは自分がコドモだったかなのかもしれない。
普通に、大人なら普通にしてること。
キスくらい、すればよかった。
こんな風になるなら、なんだって、なんだって。
緑の手袋の上に涙がぽたぽたと落ちる。
しずくは何故か黒くて。また泣けた。
マスカラが落ちていく。
私の景色を黒く染めて。
ひとしきり泣いた後、真夏は線路に出てみた。
オレンジ色の街灯の中には蝶のように雪が舞っている。
次の電車はまだ来ない。
彼女は歩き始めた。
一つ前の駅まで歩いていこう。
彼のいるあの駅まで。