自作お題小説『壊』
走らない車
ガソリン満タン。
安全確認完璧。
さぁ……お前に会いに行くよ
乗り込んだ運転席
チラリと見た助手席
お前がフワリと笑った気がした
握り締めたハンドル
憎いくらい握って
こいつが俺からお前を奪ったんだ
さぁ……今から…お前に会いに行くよ
お前の好きだったドライブをしながら
お前を奪ったこの車で
俺は…お前の元へ行くよ
踏み込んだアクセル
勢いよく発進した車は
次の瞬間その動きを止めた
「え……?」
何で?
ガソリンも満タンに入れた。
エンジンオイルも入ってる。
バッテリーだって三ヶ月前に変えたばかりだ。
ビーーーーーーーー!!
拳を振り下ろすと
耳障りなクラクションが鳴り響いた
「頼むからっ!動いてくれよ……。」
流れた涙はシートに落ちて…染み込んでいく
夜の闇の中
クラクションの音だけが
空しく鳴り響いていた
終わり 09/01/07